雨音色
「お待ちください!」


長い廊下を歩いていると、後ろから彼らを追いかける声がした。


振りかえると、女中のタマが駆け寄ってきた。


「あの。


・・・お嬢様を連れて帰ってきてくださって、ありがとうございました」


「いえ。当然の事をしたまでです」


いつものように、彼は変わらない微笑みをたたえてタマに言う。


彼女は少し困惑したように下を向いたが、直ぐ顔を上げた。


「藤木様。1つだけ、お聞かせください」


「はい」


「藤木様は、


・・・もし、もしも・・・」


タマは、言いにくそうに口ごもった。


しかし、直ぐに彼女は決意したのか、真っすぐに彼を見上げた。


そして、早口でその続きを言う。









「もし、幸花お嬢様と結婚することが出来た時、

お嬢様を必ず幸せにすることを約束してくださいますか」












思いもよらないその問いに、彼は目を丸くした。


しかし、直ぐにそれは微笑みへと変わる。


「僕の家は裕福ではなかったから、


手に入れたい物があっても、手に入らないことの方が多かったです。


だから、手に入らないって分かれば、いつもそのまま諦めてました。


・・・今回も、そうできるって、思っていたのです。


それなのに、・・・可笑しいですね。


諦めきれないのです、彼女を。


どうしても、どうしても、幸花さんと歩く未来を手に入れたいって、


僕の中の僕が我儘を言うのです。


きっと、この我儘が叶えば、僕はこの上なく幸せになれる。


そして、僕が幸せになれる事が、彼女を幸せにできる必要条件です」

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