雨音色
タマは何も言わず、ただ藤木を見つめ、そして微笑んだ。


そしてその場で深々とお辞儀をした。


2人とも同様に頭を下げ、そのまま長い廊下を歩き去って行った。













「先生」


車に乗り込もうとすると同時に、彼は牧に声をかけた。


「何だ」


ぶっきらぼうに、牧は言葉を吐く。


「・・・どうして、また僕を助けてくださったのですか?」


静かな空気が流れた。


牧は少し伏し目がちに、少しずつ言葉を落としていく。


「・・・君の父上の気持ちを、・・・知りたかったのだよ・・・」


「・・・僕の父の?」


「さぁ、乗れ。するべきことはした。後は天命を待つのみだ」


「はい」


藤木は晴れやかな笑顔でそう答え、車に乗り込む。


エンジンが軽快な音を出して、その場を去った。
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