雨音色
青空だった空は、既に黒い雲で覆われていた。
遠い空から、ゴロゴロと、不穏な音が聞こえてくる。
「・・・今まで、お世話になりました。
受けた御恩は、そして、お屋敷での思い出は、一生忘れません」
タマは、その場で膝まつき、両手を合わせ、地面すれすれまで頭を下げた。
あまりに、時間の流れがゆっくりだった。
英雄は、何の表情を浮かべていない瞳で、その姿を見ていた。
そして、その手に握られた紙を包んでいた赤いひもをはずし、
その中から出てきた半紙を取り出し、そこに綴られた文字に目を通していた。
「・・・ご主人様・・・私は、」
「許さん」
英雄の顔からは、明らかに怒りの表情が浮かんでいた。
「・・・分かっております、私が犯したのは、大罪でございます。
許されなくても、・・・許されなくても構いません。
・・・ただ、ご主人様、お分かりくださいませ。
幸花お嬢様も、奥様も、2人とも、かけがえのない存在を得る幸せを求めて・・・」
タマが必至の弁解を述べる。
牧は、いてもたってもいられなかった。
思わず、藤木の母の制止を振り切り、その場に駆け寄ろうとした、その時。
「私に水を運ぶ役は、・・・君以外にできる人間はいないんだ」