雨音色
「ようこそいらっしゃいました。牧殿でいらっしゃいますね。山内でございます」

牧は深々と頭を下げた。


「初めてお目にかかります、山内殿。よろしくお願いします」


「それで、そちらの殿方が・・・」


軽く背を押されて、一人の若い男性が入ってきた。


彼女はそちらの方を一瞥した。


飛び込んできた姿に、彼女は一瞬息を呑んだ。


長身で涼しい目元。


優しそうな口元。


これまで見てきた学者らしくない。


今までの、『学者』の見合い相手とは『多少』異なっている・・・ような気がしたからだった。


「藤木壮介と申します。牧先生に師事しておりまして、現在助教授をしております」


『助教授』


何度聞いたか分からない肩書きであった。


やはり――まぁ、分かってはいたのだが――今回も一緒。


彼女は自分のつま先を眺める。


先程のそれは、やはり気のせいのようだったらしい。


重苦しい落胆、という重荷が両肩に被さってきた。


「よろしくお願いします。藤木先生。幸花、自己紹介をなさい」


ぽん、と肩を軽く叩かれた。


我に帰った幸花は、一歩前に進む。


「山内幸花と申します」


長年教え込まれてきた社交の挨拶は、完璧である。


きっと誰にも、この笑顔が作り物だとは分からない。


だからこその、これまでの「成績」がある。


「藤木壮介です。よろしくお願いします」


二人は揃って頭を下げた。


「それでは腰をお掛けになってください」


幸花の父、英雄が言う。


それと同時に、がらがら、と給仕の者が料理を運びこんで来た。

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