雨音色
ここに到着してから既に30分が過ぎている。


庭園に来てから、二人の間にあるのは、呼びかけだけの繰り返し。


幸花は足早に藤木の前を歩く。


藤木は彼女の数歩後ろを追いかけるかのように歩いていた。


まるで鬼ごっこをしているかのように。


幸花は藤木の方を見ようともしない。


それもそのはず。


彼女の心は、部屋を出たときにした1つの決心で占められていた。


『必ず相手方から断らせる』


父が気に入ってしまった以上、残された手段はそれしかない。


彼女は頭の中でその言葉を先ほどから呪文のように何度も繰り返し唱えていた。


そして彼が話し掛けてくる度に相手を睨み、


語尾を強くする、


しかし暴言は吐かない・・・出来る限り。


これが彼女の戦略だった。
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