雨音色
「あの・・・山内さん」


それは何度目になるかも分からなくなるほどの呼びかけだった。


彼女のいらつきは既にピークを超えていた。


「・・・何なのですか、さっきから。

言いたいことがあればさっさと仰ったらいかがですか?

殿方であればはっきりと物怖じせずに物を言うのが通でしょう。

まったく・・・」


彼女は初めて彼の方を振り向き、強く睨み付けた。


彼が困ったように自分の頭を掻く。


「すみません」


彼が頭を下げる。


その態度に、彼女の怒りは益々湧き上がる。


「そういう意気地の無い殿方では先が思い遣られますわ。

そもそも、貴方様は大学の助教授でいらっしゃるのでしょう?

だったらはっきり言うべき事を言うのが当然でしょうに」


彼が呆気にとられたような顔をした。


「申し訳ありません。

それでは、先ほどから気になっていたことをお尋ねしますが・・・」


彼が一呼吸置く。


「お見合い、嫌でなさってるのでしょう?」


「は・・・」
< 23 / 183 >

この作品をシェア

pagetop