雨音色
彼が声をあげて笑う。


朗らかな笑い声に、思わずつられそうになる。


「僕も経験があるんです。

興味の無い講義を取らされて、危うく『不可』になるところでした。

特に刑法は物騒ですから、女性は好まないかと。

あれ、もしかして興味がおありで?」


「いえ、そういう訳では・・・」


彼女は考えた。


彼を形容する言葉を修正する必要がある、と。


彼は今までの見合い相手とは異なる、という言葉が相応しいようだ。


「あの・・・藤木さん」


彼女は俯き加減で言った。


「はい」


「宜しければ、その・・・ジャズ・・・でしたっけ?」


「えぇ」


えへん、と軽く彼女が咳払いをした。


「聞いてみたいですわ、そのジャズという音楽を」


「もちろん。友人からレコードと蓄音機を貰ったので、機会があれば是非」


彼が微笑んだ。彼女もそれにつられて微笑み返した。


占いが外れてよかった、彼女は心からそう思っていた。
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