雨音色
「・・・タマ」


「はい?」


二人がベッドの上に腰掛けた。


「・・・お父様に伝えといて。幸花はまたお会いしたいと言っていたって」


「はい。承知いたしました」


タマは吹き出すのをこらえるのに必死だった。


「誤解しないで。

ただ、面白い方だからまたお話しを聞きたいだけ。

助教授だからお話もお上手なの。

それに私の好きな画家も知ってらっしゃったし。

新しい西洋音楽についても勉強したいし・・・」


幸花が早口で話し出す。


いつになく雄弁な彼女を、タマが落ち着かせる。


「はいはい。今度お会いになる時も、タマが綺麗にして差し上げますよ」


「・・・ありがとう・・・」


溜息にも似た呟きが、彼女の口から零れ落ちる。


「もうお休みなさいませ」


タマが立ち上がった。


「お休みなさい」


薄いブランケットを幸花の上に掛けた。


彼女が目を閉じる。


気のせいか、その口端はいつもより少し上にあがっていた。
< 31 / 183 >

この作品をシェア

pagetop