雨音色
「おはようございます・・・」


頭はぼさぼさ、古びた和服姿で現れたのは、藤木であった。


着用しているのは、ひびの入ったいつもの眼鏡だった。


「おう。おはよう!」


そんな彼をいつもよりも明るい笑顔で迎えるのは牧であった。


「・・・何で今日はそんなに機嫌が良いのですか」


頭を掻きながら、欠伸をする藤木の背を勢い良く牧が叩く。


「痛いですよ、先生」


「何を言う。私はずっと心配していたんだ」


彼が藤木の肩に手を回す。


「お前みたいな、優しいけどどこか頼り無さそうで抜けている感じのする男は

女に好かれないからな・・・。しかし、これで一安心だ」


「・・・どういうことですか?」


妙な胸騒ぎがした。


「来週の日曜日、幸花お嬢様がお前に会いに来たいとおっしゃってるらしく、

女中の方から都合は付くかと電話があってな。もちろん大丈夫と答えておいた」


「・・・はい?」
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