雨音色
「・・・いつもここでお食事を?」


午前11時45分。


『エリーゼ』と書かれた暖簾が掲げられたと同時に入ったその食堂には、


当然のことながら、客は彼ら二人だけだった。


「オムライス2つ!」と入った瞬間叫ぶ藤木に、彼女は驚いた。


「ここではそういう風に注文なさるのですか?」


「そうです。カフェーでは軽食しかありませんし。

こういう所は、初めて・・・ですよねぇ」


彼らは近くの木製のテーブル席に座った。


店内はカウンター席とテーブル席からなっており、


店の奥には欧州の置物や蓄音機等が飾られていて、


西洋の雰囲気が漂っている、極普通の―彼女からすれば異世界の―食堂であった。


「いえ、ただ驚いただけで・・・こちらにはしばしば来られるのですか」


「えぇ。牧先生に良く連れて来てもらうんです。ここのオムライスは最高なんですよ」


彼が無邪気に笑う様子は、彼女の心を飛び上がらせる。
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