雨音色
「今日は先日と違って髪を整えてきていらっしゃらないのですね」


彼女の言葉に、彼は一瞬その意味を飲み込めないでいた。


「え?・・・あ、すみません。走ってきて、それでこんな状態に」


藤木が恥ずかしそうに頭を掻く。


ぼさぼさな髪が、その状態に拍車をかけた。


ずり落ちていた眼鏡をそっと元の位置に上げる。


丁寧に上げないと、壊れてしまうからだった。


「でも、仕方ありませんね」


彼女は満面の笑みを称えながら、彼の隣に来た。


「どこか案内してくださりませんか?

出来れば私が知らないような場所に」


しばらく悩んで、彼が答える。


「・・・それじゃぁ、お腹空いてません?」


「え?」


彼女は目を丸くする。


昼に近いとはいえ、出会ってすぐに昼食とは考えていなかった。


「おいしい洋食屋があるんで、案内します」


彼女はまるで、奥の見えない山林の入り口にいるような気分がしていた。
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