雨音色
「山内さん、貴女は・・・」


彼が呟く。


眩しそうなものを見つめるかのごとく、少し目を細めながら。


「え?」


その眼差しに、彼女は戸惑った。


そして、混乱した。


「いえ・・・。

それならばエリーゼを出た後、良い所に連れて行ってあげますよ」


彼がいたずらっぽく笑う。


湯気を立てたオムライスが二人の前に運ばれてきた。


「藤木先生、あんた今日はえらいベッピンさん連れてきてるねぇ」


運んできた女性は、ここの店の主人だった。


「お嬢さん、この人、こう見えても頭が良くて面白い人だから。

仲良くしてあげてよ」


「止めてくださいよ、女将さん」


彼が恥ずかしそうに下を向く。


「えぇ、私もそう思っています」


彼女は心の底から、その言葉を口にした。


前に置かれたオムライスの、


湯気に乗せられた美味しそうな匂いが鼻をくすぐってくる。


「ではいただきましょう」


「・・・えぇ」


スプーンを右手に持った瞬間、彼女は不思議な気持ちになった。


きっと、ここから先、未知なる世界が広がっている。


妙な確信が、彼女を微笑ませる。


「あれ?食べないのですか?」


きょとんとした様子で、藤木が尋ねてくる。


「え?いえ、えっと、これはこうやって食べれば良くって?」


彼女は藤木の見よう見まねで、スプーンでオムライスを掬ってみた。


「そう。さぁ、早く食べてみてください」


無邪気な彼の期待に応えんが為に、


彼女はいつもよりも大きな口を開けて、それを食す。


「・・・どうです?」


「おいしいです。とっても」


彼女は満面の笑みで答えた。


それにつられてか、彼も笑い返す。


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