雨音色
「あ!そうだ。今日貴女様に会うから持ってきてたんです・・・」


そう言うと、彼が鞄を持って厨房のほうに向かう。


「藤木さん?」


彼は女将さんに何か言うと、店の奥に歩いていった。


そして鞄から大きな黒い何かを取り出し、そこに置かれていた蓄音機の上に載せる。


しばらくして、彼が席に戻って来た。


聞き慣れない音楽を背に載せて。


軽快な旋律に、初めて聞く楽器の音色。


「・・・この音楽は?」


「これがジャズですよ」


「・・・これが?」


彼が席に着いた。


彼女は音がする方に耳を傾ける。


体が軽くなっていく感覚に襲われた。


心が躍りだしそうな演奏に、思わず笑みが零れる。


「いかがですか?ジャズは。僕は好きなんですが・・・」


彼が心配そうに尋ねる。


「・・・とっても素敵です。こんな音楽もあるのですね」


「良かった。今日遅刻した甲斐があった・・・」


彼が照れくさそうに笑う。


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