雨音色
彼も急いで彼女の後を追った。


思った以上に芝生に足を取られる。


それを、なぜああも軽やかに走れるのだろう。


日本で指折りの財閥である山内家の娘が。


その背が視界に入る。


長い髪が左右に揺れる。


同時に、自分の心臓が強くその音を全身に響かせていた。


それが走っているせいなのかは、良く分からないが。


ふいに、前方を走る彼女が立ち止まった。


肩で息をしながら、彼女の横に立つ。


「山内さん、一体どうされたんですか・・・。突然、走り出されて・・・」


切れ切れの息をする彼をよそに、彼女は真っ直ぐに、広がる風景を見つめていた。


ちらり、とその横顔を見た。


その時、彼は自分の心臓が強く音を打つ理由を悟った。


一瞬、立ち眩むほどのまぶしさを覚える。


ホテルのロビーでみた光よりも、まぶしいほどのものを。


そして、初めて判った。


自分の心が、彼女と再び会うことを、切に願っていることを。
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