雨音色
その日の昼、幸花を送った後、タマが屋敷に着いた時の事だった。


玄関近くを歩いていると、


傍の花壇で作業をしている二人の女中が会話をしていた。


「ねぇ、知ってる?お嬢様、

今日は前回のお見合い相手とお出かけなさるらしいわよ」


「まぁ。あんなにお見合いを嫌っていたのに、

どういう風の吹き回しかしらねぇ」


最近入りたての若い女中達だった。


こういう噂は、女中内の秩序維持を壊しかねない。


そう考えて、タマは二人に注意をするため、近付こうとした。


「それもね、相手なんだけど、

帝国大の助教授で、藤木って名前らしいんだけど」


「だけど?」


その含みを持つ響きに、思わずタマも耳を済ませる。


「それがさ、私、その人知ってるんだ」


「え?何で?」


同じ科白を、彼女も心の中で言った。


「実家の傍に住んでるんだけど、その人凄く貧乏なのよ」


聞こえてきた言葉に、耳を疑う。


「住んでいる家がボロボロで、着ている服も着たきりスズメなの。

それに、確か病弱なお母さんを抱えてると思ったよ」


タマは背筋に氷水をかけられた気がした。


「え?裕福な人じゃないの?」


「うん。・・・何でかねぇ。山内家は裕福だから、良いのかなぁ」


タマは、絶句した。


足が土に張り付いてしまったかのように、


しばらく彼女はその場で立ち尽くしていた
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