雨音色
「・・・」


タマは夜空を見上げた。


ランプの無い夜空に輝く月が、眩しかった。


「・・・やはり、そうすべきよね・・・」


タマは踵を返した。


そして、今来た道を、逆方向に進み始めた。




















「旦那様」


「タマ。帰ったのではなかったのかね。忘れ物か?」


廊下で幸花の父英雄が歩いていた。


涼しげな和服に身を包んだその姿は、夏の風情を感じさせる。


「旦那様、お話したいことがございます」


いつになく険しい表情が、彼の背筋を伸ばしていく。


「どうした、改まって」


「・・・居間の方まで、ご一緒願います」


そう呟くと、彼女は応接室のほうへ独り歩き出した。





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