雨音色
後20分もすれば、今は夕焼け色に染まるその場も黒色に染め上げられていく。


藤木は大学近くの土手にいた。


帰り道に寄るのは初めてだった。


授業が終わって、帰路に付いていた途中、


何故か無性に、ここに立ち寄りたくなった。


夕日色の光の中に腰を下ろす。


その橙色の光が、胸の奥をざわつかせる。


何故だろう、藤木は考えてみた。


思い当たること。


今朝、見合いをした女性に断られた旨、告げられた。


これだけしかない。


でも、それは同時に、


それだけの事に過ぎない。


これは、それ以上の、又はそれ以下の意味も成さない。


その事は痛いぐらい、良く承知している。


ふと、彼女と会った時に感じた眩しさを思い出す。


眩暈にも似た感覚を生じさせる、強い輝き。


不意に胸の奥底が苦しくなった。


ぎゅ、と締め付けられるような苦しみが、


全身へと広がっていく。


ゆっくり、ゆっくり。


じわり、じわり、と。


「もう、会えないのか・・・」


あるがままの事実を言語化させてみた。


不思議なことに、胸の痛みが更に強まっていく。


息ができなくなる位、それは胸を締め付けていった。


彼は両膝を抱え込んだ。


顔を膝に埋める。


目頭が痛いぐらい熱く感じられた。


生暖かい風が、彼の傍を吹き抜ける。


夏の残り香が、その場を渦巻いていた。


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