雨音色
「・・・承知いたしました。タマの無礼、どうかお許しくださいませ」


タマが、深く頭を下げる。


「いえ。僕の方こそ、故意ではございませんが、

身分を偽っていた事を謝罪しなければなりません」


彼も同じく、頭を下げた。


そして、彼女は顔を上げ、出口の方にその足先を変えた。


「・・・藤木様」


しばらく歩いて、タマが立ち止まった。


「貴方様は、お嬢様のことを好いていらっしゃいましたか」


暫くして、彼女の背中に暖かな言葉が反射した。


「えぇ。そう・・・だったようです」


タマは軽く会釈をして、再び歩き始めた。


彼はその姿を、見えなくなるまで見送った。


暫くの間、彼はその場で、


胸の奥でじわりと疼く締め付けてくる痛みを、噛み締めていた。
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