幸せという病気
第9章【死ぬのは幸せの終わり】
第九章 死ぬのは幸せの終わり



次の日、弘樹の告別式が行われた。

ゆらゆらと降る白い雪の中、黒いスーツを着た人々は酒を浴び、笑いながら帰ってゆく。

「笑って帰れるような葬式なら来るなよ・・・」

武はそう思いながら、弘樹の家の玄関先で帰っていく人々の後姿を眺めていた。

そんな武を気遣うように、家から出てきたすみれが話し掛ける。


「武。大丈夫?」

「うん。寒いし風邪ひくから中入ってな?」


武は、すみれの問いに少し淋しげに微笑んで答えた。


「・・・一緒にいるよ?」


そしてすみれが笑顔でそう言うと、武は曇った顔で話し出す。


「・・・葬式ってのは形だけのもんか・・・」

「え?」

「ただ、参列すればいいだけのもんなんかな」


遠くを見つめながらそう話す武に、すみれは戸惑いながらも優しく切り返した。


「・・・そんな事・・・どうした?」

「いや・・・親が死んだ時もそうだった。式の途中は涙流していた奴が、最後はあぁやって笑って帰ってくんだ・・・なんでかな・・・」


武のその言葉に、すみれはフォローの言葉を見つけようとする。


「それは・・・笑って紛らわしてるだけだよ・・・悲しいのを・・・さ・・・」

「・・・だといいな・・・俺らも帰るか」

「・・・うん」


そしてすみれも悲しい顔をした。

武はその顔を見ないまま、


「神谷に渡すもんあるから、ちょっと待ってて?」


そう言い、家の中へと入っていく。

すみれは小さな声で頷き、少しだけ目を潤ませていた。

そして一人、片づけをしている神谷に、武は「お疲れ様」と声を掛ける。


「伊崎君・・・今日はありがとう」

「いや・・・元気出せよ?」


武は神谷の心労を気遣った。

すると、涙をこらえながら神谷は無理に笑顔を作る。

「・・・元気は・・・・・・やっぱ出ないよ」

「ごめんな・・・力になれなくって・・・ごめん・・・」

武が、いたたまれなくなりそう謝ると、神谷は首を振りながら堪えきれずに泣き出した。



武は・・・。



武はその姿を見てられなかった・・・。
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