秘密の花園




「そういえば着替えないの?」


あずなさんに問いかけられて、写真を見てぼうっとしていた私は慌てて荷物を抱えなおした。


「あっそーだった。トイレ借りますね」


「トイレはそこの扉だよ~」


「は~い」


誰もいないトイレに駆け込んで鍵を閉める。


便座の上に荷物を置いてまじまじと写真を眺めてみた。


えへへ。


自然と笑みが漏れてしまう。


だって水瀬さんに可愛いって言われたんだもんね!!


今日は私の人生で最高の日だ!!


鼻歌を歌いながら写真をカバンの中にしまう。鼻歌すら音痴なのはご愛嬌。


今日の私はすこぶる機嫌がいいのだ。


嵐子のことは別として。


さあて着替えるかな。いつもの自分と早く「こんにちは」したい。


着慣れないものを着ているとストレスが溜まる。


何の変哲もないTシャツが極上の絹糸で仕上げたような手触りの一級品のように感じるくらいだ。


ところが着ているニットの裾をまくろうとしたまさにその時だった。




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