秘密の花園




「体調が悪いなら帰った方がいいよ。送ってくよ」


あずなさんの気遣いが余計に居心地を悪くする。


「いいです。ひとりで平気ですから」


今は一刻も早くひとりになりたい。


私はとるものもとらずその場から飛び出した。


恥ずかしくて惨めでいっそのこと誰かに息の根を止めて欲しかった。


「って、理香ちゃん!!待って!!服っ!!」


慌てたあずなさんが制止したにも関わらず、私は美容院から走って逃げ出してしまった。


バカだ…。


ホントにバカだった。


なぜ気づかなかったのかという後悔と、思いあまって恥をかく前で良かったという安堵がごちゃまぜになって涙が滲む。


惨めだった。


舞い上がってホントにバカみたい。


バカで惨めでどうしようもない。


浮かれて。


水瀬さんの行動に一喜一憂して。


王子様だと思った。


私だけの王子様。


けれど彼には既に隣にいるべき人が決まっていた。


私の出る幕なんてとうになかった。


走って、走って、走って。


美容院が微塵も見えなくなったところでようやく速度を緩める。


殺人的な夏の日差しは鮮やかな夕陽に姿を変えていた。


ああ、もうっ!!



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