秘密の花園
「理香ちゃん、悪いけど僕はマンガの類はあんまり読まないんだ~」
店長は私の窮状などつゆ知らず、呑気にそう言った。
今日のお客さんは0人。
ハゲも、デブも紫頭のおばさんすらいない。
すっかり竹富は閑古鳥さんの巣穴と化している。
私は口から魂が抜けていくのを感じた。
「はうぅ……どうしよう……」
勇者から魔法使いにジョブチェンジしたとしても、もう間に合いそうにない。
ミスキャンまであと1週間しかない。
このままだとにっくきあいつに負けてしまう。
そして、私は嵐子に喧嘩を売ったバカな女としてミスキャンの歴史にアホみたいな足跡を残すことになるのだ。
「そんなに魔法が使いたいなら、代わりにこれなんてどう?」
店長は肩を落とした私を見かねたのか、一冊の本を棚から取り出して渡してくれた。
『家庭で出来る100の妙薬』
ポップなキャラクターがフライパンを持っている表紙絵のせいで普通の料理本にしか見えないのがよけいに物騒だ。
間違って買ってしまったらどうしてくれよう。
「オススメは28ページだよ。ホントにご家庭にある材料で出来るから」
……なんでこの本屋潰れないんだろう。
そう思いながらもお客さんがいないのを良いことに、私は『家庭で出来る100の妙薬』を読みふけった。