秘密の花園




それにしても綺麗なところだなあ…。


入り口こそ普通の雑居ビルのようないでたちだったが、中に入ればそこはまるで異世界だった。


清潔感のある白い壁に、光りをふんだんに取り入れるための一面にガラス窓、凝ったインテリア。


更に小物に至る細部にまで手を抜かないこだわりを感じる。


水瀬さんのいる支店はもっとカジュアルな感じで、唯香みたいな高校生でも入れそうだけど、本店は高級感溢れる雰囲気で客層も高そうだ。


うぅ…早く帰りたいよぉ…。


練習台にするだけなのになぜこんなに待たされるのだろう。


サタンが中々戻ってこないせいで、この娘はどこから迷い込んだのかしらと、不思議に思ったお客さん達からの好奇な眼差しを一身に浴びてるんですけど。


ハイハイ。私はあんたらから見たら珍獣ですよー。


平日の、しかも昼間にこんな所で髪の毛を切るラグジュアリーな方々に対して威嚇する気にもなれない。


何も聞こえていない振りをして受け流すのは得意だ。


それから待たされること10分。


「行くぞ」


ようやく奥から戻ってきたサタンは時間を惜しむかのようにさっさか足を進めて店から出て行った。危うく置いていかれそうになり、慌ててその背を追いかける。




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