命しぶとく恋せよ乙女!


「多架斗くんのためなら既成事実だっていとわな…」
と、そこまで彼女が言ったところで俺は逃げ出した。我ながら正しい選択だったと思う。ともかく無我夢中で逃げた。
にもかかわらず、愛沢は妙な勘違いをしてしまったらしい。「昨日はごめんねっ、まずはお互いを知らなきゃなのに…多架斗くん人見知りするんだもんねっ! 理解してあげられなくてごめんなさい!」と翌日俺の家の前で頭を下げた。いやどちらかというと俺に君が理解できない。
しかも愛沢はいったいどこでどうやって調べてくるのか、俺の住所やら食べ物の好みやらを知っている。もちろん俺はから揚げが好きだなんて一切しゃべってもいないし、ほのめかしてもいない。彼女いわく「私たちの間に言葉はいらないよ?」とのこと。言葉はいらなくとも法律の壁というものがあるのだよ。しかもプライバシー。

と、そこまで回想したところで隣を満足そうに歩く愛沢を見る。告白してきたときは、まだかわいかったのに…何故だか愛沢につながれた腕が、鎖につながれた囚人のように重く感じた。
「多架斗くんっ、今日はいい天気だね! デートには最適…よっし行こう!」
「待て! 学校はこっちだ!」
真顔で通学路を外れようとする愛沢をあわてて止める。どこ行く気だ。
「学校じゃ二人っきりになれないよ多架斗くんっ! おまけにクラスまで違うんだよ!」
「何で俺とお前が二人っきりになる必要があるんだよ!」
「デートは基本二人っきりでしょ?」
「俺は学校に行くんだよ!」
冗談じゃない。それに普通デートとは放課後、あるいは休日に行くものではないのだろうか。もっと天気予報とか当日の混み具合とかいろいろ考えてだな…ってないない。そもそも行かないし。
「大丈夫! 学校には私から連絡しておくから!」
「不純異性交遊で怒られるよ!」
「えっ、やだ! 多架斗くんたら不純なことするつもりなんだっ! きゃ! でもダメ、私が多架斗くんに不純なことする側だから」
「俺が襲われんの!?」
じりじりと顔を迫らせる愛沢に危険を感じた俺は、学ランを脱ぎ捨てて逃げた。しょうがないだろ、腕が抜けないんだから。


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