◇◆あじさい◆◇
夜も10時をまわった頃、部屋でケータイが音を鳴らせた。


沙織からだった。


『もしもし…。』


『もしもし風花ぁ?』


『うん。どうしたの沙織?』


『…っどうしたのって風花ぁ、あの後、とっつぁんとどうしたのかなぁ…って…。』


なんとなく分かっていた。

『…うん。
裕介とね、付き合えば?って…。俺も嬉しいって…。』


『えっ!?
…それで風花っ、なんて言ったの?』


『………。
何も、言えなかったよ…。
自分でもね、突然だったから、どうしていぃのか分かんなくて…。

でも…。

とっつぁんに、あんな風に言われたら…、ちょっとショックだったのかもしれない…。何も言えずに帰ってきちゃった…。』


『…風花ぁ…。』


『…ねぇ、沙織ぃ?
アタシ…。自分の気持ちが誰に向いてるのか、分かんないんだ…。』


『…あのね、風花…。
急がなくてもいいと思うんだぁ。裕介の事は、ずっと好きだった訳だし、とっつぁんだって、常にアンタの傍に居たんだから…。

選べない…ってゆ〜かぁ、自分の気持ち分かんなくなったって、仕方ないよ!』

『…ぅん。
でもね、一つだけハッキリしてる事があるの…。』


『…えっ?』


『アタシね、
クラス替え、とっつぁんとは離れたくなかった。』


『…風花ぁ…。
だったらもう答えなんて…。』

『…でも裕介とも一緒にって願った自分もいたの!
わがままだよね?欲張りだよね?分かってるんだけど…。分かってるんだけどなぁ…。』


『…そっかぁ…。
きっと、そのうち分かるよ。風花の…、本当の気持ち…。』


『ぅん。
ありがとう沙織。
いつも心配ばっかりさせちゃって…ごめんね。』


『ぅうん!
アタシほらっ!小さな親切大きな何とか〜ってやつ〜。じゃあ、また明日ね。』

『うん。また明日…。』



沙織との電話を切ると、今日の出来事がフゥ〜ッと蘇った。


裕介の事…。


とっつぁんの事…。



…そして、父の話…。
< 136 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop