奥に眠る物語
出会い
出会いなんて大層なものじゃない。

アルバイトしていた小さな喫茶店にたまたまやって来た
ただの客。

印象的だったのは、真夏だというのに長袖のロングコートを
着ていたということ。

でも目を奪う鮮やかな空色のコートは、まるで空を切り取ったみたいで
とても美しかった。

「注文、いいかな」

彼が声をかけてきたので、私は我先にと駆けて行った

まぁ、この喫茶店にはオーナーと私しか従業員はいないのだが。

「ご注文は?」

「じゃあ、アッサムをホットで」

・・・・はい?

聞き間違えたのかしら。

店内は冷房が効いているので涼しいが、真夏にホットはあまり注文はないし、
そもそも目の前の彼は未だロングコートを着ているわけで。

「・・キミ、大丈夫かい?」

彼が苦笑いをしながらこちらを見てくる。

あ、そうだ 注文の途中だった・・

私は慌てて繰り返す。

「あ、アッサムのホットですね!! ご注文は以上でよろしいでしょうか!!!」

「うん ありがとう」

なぜか、私は彼の笑顔に違和感を覚えた。

そんなことより、早く準備せねば!!

私は伝票を握り締めてカウンターへ向かった。
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