奥に眠る物語
窓際
それから彼は一週間後にやってきた。

また、オーナーは外出中。 また店は誰もいないので好きな席へと促す。

彼は迷わず窓際の、影になるスペースに座った。

暑いのなら、コートを脱げばいいのに。

そんなことを考えていると彼が手招きしてきた。
注文、ということなのだろうか。

「ご注文お決まりでしょうか」

「・・じゃあ、今日はオレンジペコにしようか」

カリカリとシャーペンを伝票の上で走らせる。
ああ、重要なこと聞き忘れた。

「ホットですか?」

「うん。 よろしく」

そういうと、彼はひじをつきながらぼんやりと外を眺め始めた。

うん、やっぱりかっこいい。

そんなことを思いながら私はまた紅茶を煎れた

「お待たせしました、オレンジペコです」

静かに彼の目の前に置き、数歩離れる。

彼は一口飲むと、私のほうをみて笑った。

「少し上達したね ざらざらがなくなった」

「ほ、ホントですかっ!!」

正直に私は嬉しかった。

あれから少しでも上手く淹れられるように、家で練習したりオーナーに無理やり飲ませたりした。

ほめられると、頑張ったかいがあるものだ。



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