ワタシノタイヨウ
すると、しばらくじっとしていた彼の右手が、空へゆっくりと伸びた。


何かを一生懸命つかもうとしているように見える。


彼が愛おしそうに見つめる先には太陽があった。


そう、彼は太陽をつかもうとしているのだ。


何度も何度もつかむ事の出来ない太陽に向かって、掌を動かす彼。


でも、何もつかむ事が出来なくて、その右手はゆっくり彼の目の前に戻される。


何も無い掌をじっと見つめ、その掌をぎゅっと握りしめた瞬間、彼の頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。



私は男の人の涙を初めて見た。


彼の涙を見て私の胸はギュッとしめつけられたように苦しくなる。


今すぐ駆け寄って抱きしめたい気持ちになったけど…私の足は一歩も動かなかった。


私は何も出来ずに、しばらくそのまま彼を見つめていると、ふと自分の涙に気付いた。


私の頬にも何故か涙がこぼれ落ちていたのだ。


私は自分の涙に驚いた。
まだ出会ったばかりの、何も知らない彼の為に泣いてる私…。


その時私はこの涙の意味と、そして彼が抱えているものが何なのか、とても知りたいと思ったんだ。



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