ワタシノタイヨウ
靴に履きかえた私は裏庭へと走った。あの角を曲がれば、さっき見たベンチのある場所に出る。


とりあえず曲がり角の手前で一旦止まり一呼吸。

それから、そっとベンチの方を覗いて見ると…。


彼はさっきまで横になっていたはずの身体を起こし、ベンチに座って煙草をふかしていた。


その表情はどこか淋しげで切なく、そんな彼を見ていると私の胸は苦しくなった。


(どうしよう‥。)


勢いよくここまで来たのはいいけど、なんて話しかけたらいいのか迷っていると、ふいにうつむいていた彼が空を見上げた。


(あっ、あの時と同じ‥)

あの日見た、今にも泣き出しそうな、とても辛そうな表情で空を見上げている。

彼の見つめる先は太陽‥私にはなぜかそう見えたのだった。


私は出ていくタイミングを失い、しばらくじっと彼を見つめていた。


煙草の灰が地面に落ちる。


でも彼はそれには気付かずに、ずっと太陽を見つめていた。



*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*
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