夏の約束



「そんなところに登ったりしたら危ないよ」



中庭にあった木に登って遊んでいたとき、突然かかった声があった



「別に大丈夫だよ」



俺は木の葉で見えない声の主へと返した

そしてもう一枝、上へと行こうとしたとき



「怪我したらどうするんだ

早く降りてきなよ」



幼い声なのに強めの口調で返ってきた言葉に俺は驚き、しぶしぶ降りることにした


ゆっくりゆっくり登ってきた枝を踏んで降りていく

最後はひょいと跳び、見事に着地してみせた


そして生意気にも俺に注意してきた奴は、どんな奴だろうと思い、そちらに目を向けた


そこにいたのは俺と同じくらいの男子だった


俺はこれにも驚いた

てっきり大人だろうと思っていたからだ

子供なら、ましてや男子ならこういった冒険じみた遊びをしたがるものだから



「もうしないでね」



なにやら白くていかにも病弱に見える少年は言った


入院しているのであろう服装をしている


ふてくされている俺の顔を見た後、その少年は病院へと戻ろうとした


俺は歩き出したその男子の前に立ち塞がり聞いた



「お前、名前は?」



「…翔」



少々怖気づきながら翔は答えた


臆病な性格かもしれない

よく俺に注意出来たものだ



「お前ここに入院してんのか?」



翔はこくりと縦に首を振った



「…君はどうして?元気そうだけど」



ここにいる理由だろうか


俺はさりげなく嫌味が混じったその質問に答える



「じいちゃんの見舞い。ちょっと暇になったから中庭に出ただけだよ」



なんでもお酒の飲みすぎらしい

肝臓がどうとか言っていた

まったく迷惑な話だ



「そう。…もう病室に帰るから」



そう言って翔は俺の横をすり抜け、病院の方へと歩いて行った


俺はもう一度木登りでもしようかと思ったがすっかり興が冷めてしまったので、この日は結局じいちゃんの病室に戻ることにした


 家へと帰ってから、そういえば自分の名前を名乗ってなかったことを思い出した




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