夏の約束



「…ひまわりの種を、看護師さんに貰ったから埋めようと思って」



よく見ればスコップが近くに落ちている


今年のひまわりはもう咲いているからそれの種だろう

今植えれば来年には花を咲かせる



「よし、俺も手伝ってやる」



え、と声を出しながら驚いている翔をよそにスコップを持ち、土を一回掬い小さい穴を掘った



「ほら、種入れて」



スコップに土を入れて種を待っている俺を見て、翔は慌てて種を一つ落とした

その上に土を被せる


その作業を何回か繰り返し、俺達は全ての種を植え終わった



「ふう、疲れた」



俺は昨日登った木の日陰に座り込んだ

翔も続いて隣に腰を下ろした



「手伝ってくれてありがとう

えっと、」



「ああ、勇希っていうんだ」



俺は翔に向かってにっと笑って見せた


そして少々気になっていたことを問いかけた



「お前、どれぐらいここに居るんだ?」



翔は少し顔を俯かせつつも口を開いた



「…もうずっとだよ

病名とかは皆教えてくれないけど」



ということはかなり悪いのかもしれない

病名を教えてくれないということは、それはかなりなんだろうなと思った



「君のおじいさんは大丈夫なの?」



「大丈夫

入院の期間も短いし

家も近いからその間は俺、毎日ここに来るんだ」



そうなんだ、と呟きながら翔は立ち上がった



「そろそろ戻るね

外に出ていい時間、看護師さんに決められているから」



俺がおう、と一言答えると翔は昨日のように病院の方へと歩いて行った


その背中に向かって俺は声を放った



「また、明日な!」



翔は一瞬驚いたような表情で振り向き、そして笑顔を見せて行った





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