ますかれーど

--玄side--




だから下弦の月はキライなんだ。


ココロが飲まれて制御がきかない。


口から言葉が出れば出るほど苦しくなって、

出れば出るほど

アイツの顔は人形のようになってゆく。


壊れたように笑顔を描き、言葉を紡ぐ。まるで、感情を封じた道化人形。

そんな顔にしてるのは、あいつか?オレか?


ーー‥オレなのか?


苦しくて‥
苦しくて、
苦しくて。


フタをしろ。
表に出すな。



『開けてはいけないよ』


そうだ。開けてはいけない。このフタは、こいつが幸せになるために閉めたフタ。

開けることは許されない。



「関係ないよ。あんたには」



ほらまた。

その顔という名のキャンバスに、綺麗に色を作って笑顔を描いて。



「あんたは何?本当のお兄ちゃんでもなければ、妹でもないでしょう?」


その口を



「赤の他人でしょう?」


無理やりにでも塞いでしまえたらーー‥



「ね?関係ないじゃん」


抱きしめて



「もう良い?寒くなってきたね」



壊してしまえたら……



「じゃあね」



真っ白なドレスを着た人形は、オレの手を離れて背を向ける。


仮面の裏の奥底に、砕いて散らしてフタを閉めた。

アイツが幸せになるために閉めたそのフタ。

その中では、“好き”の感情が“愛してる”に膨れ上がって‥


狂おしいほどに

それを押し開けようとしていた。



アイツの幸せを望むなら
この均衡を崩したくないのなら


そのフタを、開けてはいけないよ。

いけないよ?
いけないよーー‥





ーーーーーー‥





「ーー‥心‥っ」







ーーーーーー‥







「しーーんっ!!」



風が変わり、雲が割れて下弦の月がよく見える。


「心っ!!こんなとこに居たっ」



息を切らせたレイは、膝に手を置き、ゼェゼェと喉を鳴らしていた。



「どうしたの、麗花」



振り向いたアイツは、レイに駆け寄る。



「心っ!魅さんが‥」







ーーーーーーー‥






オレはしばらく、走ってく2人の背中を見てることしかできなかった。



動けなかった。




ーー‥オレ、下弦の月がキライなんだ。

闇に飲まれてゆくだろう?


……ココロが、ざわざわする。






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