ますかれーど
「座れば?」



と、自分の左隣をポンポンと叩く彼に

若干の怒りを覚えた私は、その言葉に甘える訳もなく。



「結構です」



そう言い放って背をむけた。

そして歩きだそうとしたその時‥



「ないんだろ?ーー‥居場所が」



私を引き止めるには充分すぎる言葉。

くるりと振り向いた私の顔は、そんなにおかしい?



「ぷっ、くっくっくっ‥なんつー顔してんだよ。あはーはっははははーー‥」



『若干』改め『か・な・り』むかつく。



「ひー‥はー‥あんた、面白いね」



指で目尻を拭いながら、その顔を私に向けた彼。


柄にもなくドキッとした。

だって女の子みたいに綺麗なんだもん。



「何?」

「別に」

「あそ」



「よっと」って言いながら立ち上がる彼に、オヤジかっ!って突っ込みたくなる私を抑えてみる。


すると、ふっと影にのまれて顎が引かれた。



「あ?何事?」



彼の顔が目の前にある意味がわかんない。



「ふーん。キレイな瞳の色、してんね」



そう言った彼の瞳‥

何もかもを吸い込んでしまいそう。

黒よりも少し淡い、


ーー‥紺色?




「ふっ‥アホ面」



ーー‥こんっの‥



ピシッ!!



「いったい!!何であんたにデコピンされなきゃなんないのよっ!」



もうなんか、

怒りのぷるぷるを通り越して、わなわなしてるよ私。




「仮面、割れてるよ。銀崎先輩」

「え‥?」



名前‥ってか仮面‥



「もっと自由に生きなよ」



すでに思考が停止している私に、綺麗な笑顔を残して横をすり抜けていく彼。



木の葉の天蓋から零れ落ちる光が、茜色に染まるまで‥


私は、その場から動けずにいたんだ。





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