ますかれーど
「だーーっ!!なんなんだよっあいつはぁっ!」

「ちょっとクロ、うるさいっ」

「わっけ解んねえっ」

「あはは~」

「笑い事じゃねぇんだよっみー姉!」



強い酒の匂いが俺の中に入り込み、ひとつ、またひとつと頭のネジをはずしていく。



「あんたもう酔ってんの?そんな強いのロックで一気にいくからよ」



けして広くはないこの店はもう閉店で、カウンターの向こうにはみー姉が俺の顔を覗き込むようにして立っていた。



「酔ってねぇ」

「はっ。まだまだ青いね」

「あ゛あ゛?」

「おー怖い」



オーディオも消され、この空間にはグラスを拭くキュキュッという音だけが響いている。



「なに?マスカレード楽しくなかった訳?」

「別に」

「あんたわざわざ望んで進行役やったんでしょ?」

「あぁ」

「よくやるよねぇ。あんな壇上からの進行役」

「あぁ」

「あんた目立ってしょうがなかったんじゃない?」

「あぁ」

「一応、顔と身長だけは良いからねぇ」

「あぁ」

「中身はこんなだけどねぇ」

「あぁ」

「‥ふーん」



ニヤニヤと意地悪そうに口の端を上げたみー姉は、ずいっと顔を俺の前に寄せてきた。



「心がどーした?」

「くっ!かはっかはっゴホッ‥」

「おーおー。いきなり核心ついて悪かったよ」



俺の背中を容赦なくバシバシ叩くみー姉は、すげー楽しそうだ。



「コホッ‥っ別に」



そう‥別に大したことじゃないんだ。







『それでも、玄が好き』







あいつ‥いつの間にあんなに強くなりやがった?


自分を隠すことなく、
仮面に頼ることなく、

真っ直ぐに向かってきた蒼い瞳。


迷いのない、澄んだ蒼。



「ねぇ、クロ」

「あ?」

「あんた、バカでしょ?」

「うっせ」



カウンターに突っ伏す。ひんやりとした感触が気持ち良い。



「‥ねぇんだよ」

「ん?」

「そんな資格‥ねぇんだ。俺には」



焦げついて、色褪せたココロ。

仮面を被って鮮やかに見せた。



俺、怖いんだ。




震える手。

締め付けられる心臓。



抑えろ。


ーーー‥抑えろ。



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