ますかれーど
ただ、黙って見てることしか出来なかった。

何も出来なかった。


レイみたいにいつも側に居てやることも

魅さんみたいにすくい上げてやることも

蒼さんみたいに優しく頭を撫でてやることも



アイツみたいに、仮面を砕いてやることも。



何も‥何もーー‥っ



俺、お前の為に何もしてやれない。



だから、怖いんだ。



真っ直ぐに向かって来る
お前が‥怖い。



「あんたさぁ、」



グラスの氷がカランと鳴って、トポトポと注がれてゆく音がする。



「周りのことばっかりね」

「あ?」

「もしくは、自分のことばっかり」



透き通った茶色が光を弾いて、キラキラと散らばってる。



「ちょっとは見てあげなよ」

「なにを?」

「心のコト」



あいつの名前にトクンと反応する。



「俺は‥あいつに笑って欲しくて」



でも本物の笑顔を引き出したのは、俺じゃなくてアイツだったんだ。



「俺の方が‥長く一緒に時を過ごしてきたのにさ」



あいつの仮面を砕いたのは、アイツなんだ。



「何やってんだ俺‥」



何もしてやれねぇんだよ、俺はーー‥っ



「だから、」

「だから?」

「応えたらダメなんだ」

「ふーん‥」



カウンターの向こう側に椅子をズリズリ引きずってくる音がして、大きなため息が俺の髪を揺らした。



「あんた、バカ?」

「バカじゃねぇ」

「じゃ、ウマシカだね」

「結局は馬鹿じゃねぇか」



みー姉は何が言いたい?
わっかんね。


好きだと自覚したあの日から、散々悩んでやっと封印したんだ。

開けられるかよ‥



「どーでも良いのよ」

「は?」

「ふっ。クロか心かって言われたら、アタシは心のが可愛いからね」

「あ‥そ」



クスクスと口元に手を当てて笑うみー姉は、なんでこんなに楽しそうなんだ?



「どーでも良いのよねー。あんたの安っぽいプライドなんか♪」

「はぁ?」

「いつまで兄貴を気取ってる気よ」

「別に‥」

「あんたの兄貴の威厳なんて、もうとっくに無いんだからさぁ」

「う‥」

「そろそろさ、素直になったら?」



みー姉‥?



「心はねぇ、自分で気づいていなかっただけで、昔っからあんただけを追いかけてたよ」

「‥え?」

「クスクス。そ♪昔っからね」


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