ますかれーど
--玄side--
ーーーー‥っ
ーーーろ
「クロっ!起きてっ!!」
パシンッ
「イってー‥」
「起きた?店、閉めたいんだけど」
頭をはたかれて起こされた俺。
なんか、視界がぐるんぐるんする。
目の前のロックグラスに入ってた氷は、跡形もなく消えていた。
カラン‥
「はい、水」
「さんきゅ。みー姉」
俺は、渡された水を一気に喉に流し込んだ。
「んで?」
「あ?」
「あ?じゃないよ。何かあったんでしょ?」
みー姉のその真っ黒な瞳には適わない。
「……あった」
「ふーん‥心のことでしょ?」
「ーーっ!?」
「顔に書いてある」
みー姉とは長い付き合いだ。俺とは10歳も離れてるから、昔から良い相談役なわけでーー‥
ふふふと笑ったみー姉は、カウンターの向かいに椅子を持ってきて、俺と同じ目線で座った。
「なんだ?みーお姉様が聞いてあげよう♪」
「誰がお姉様だよ」
「あんだって?」
あぁ‥なんで俺の周りの女はこう、強いのばっかりなのかなぁ。
「あのな、心に……オトコができたんだ」
「‥なんだ、そんなこと?」
みー姉は、アホらし‥とでも言いたげな瞳で俺を一瞥し、自分のグラスに酒をついだ。
「めでたい事じゃない。私は祝福するよ?」
俺も酒をつごうとしたけど、みー姉にボトルを取り上げられた。
「あんたは祝福できないわけ?」
祝福?
そんなの‥できる訳がない。
「気づいたんだ‥」
「ん?」
「気づいちまったんだよっ」
俺のナカが煮えたぎっていくのが分かる。握った拳が震えてる。
「俺、俺ーー‥」
手のひらに爪が食い込む。
「心が、好きだ‥」
「はぁー‥」
聞こえて来たのは、深いため息。
俺の涙腺は壊れかけていた。
「やっと自覚した‥か」
きっと、みー姉は知っていた。
ずっとずっと俺の無自覚な感情を知っていたんだ‥。
遅すぎた自覚。
もっと早く気づいていればーー‥
「もっと早く気づいていれば」
「え?」
「そう思ってる?」
顔を上げた俺の瞳に映ったのは、その真っ黒な瞳を優しく細めた、みー姉の顔。
「バカだねえ」
「……」