ますかれーど



静かな店内に響く、静かなみー姉の声。



「バカよねぇ」

「‥あぁ」

「ほんっとバカだね」

「あぁ」

「バカの極みだね」

「……」

「本物のバカだわ」

「……」

「バーカ バーカ」

「……」

「こんっのバカ!」




ぷつ‥




「バカバカうるせーんだよっ!!」

「バカだからバカだって言ってんでしょっ!?」

「あぁ俺はバカだよっ!!あんなに近くに居たのに、俺よりももっと近くに居られるヤツが出てきてから気づくなんて、大バカ者だっ!!

でも、気づいちまったもんはしょーがねぇだろっ!?


俺は、心が好きなんだよっ!!!」



いつの間にか、カウンターに登っていた俺。

はぁはぁと息切れしながら、みー姉を見下ろしていた。


みー姉は、そんな俺を見上げながら‥



「……でも、心が選んだのは“違う人”なんでしょ?」



その時 初めて、言葉は凶器だと思った。


そう‥俺じゃない。

お前の隣に居るのは俺じゃないんだ‥。


力が抜けていく。

カウンターを降り、もとの椅子へポスンと力なく座った‥。


悲しくて
切なくて
苦しくて 苦しくて


胸が張り裂けてしまうかと思った。


お前の隣は、俺じゃない。

これが現実。

これが、遅すぎた自覚の結果。


だんだんと、視界が歪んでゆく。



「バカだね」



優しくそう言ったみー姉。


ヤメロ。

涙腺が崩壊する‥。



「泣きなよ。男だからって、我慢するんじゃないよ」



その言葉に、俺の涙腺は崩壊した。




ーーーー‥




ずびっ‥



「泣き止んだ?」



どれくらい泣いてただろう。

俺の顔を覗き込んだみー姉は、替えのタオルと氷の入った袋を渡してくれた。



「さんきゅ」



タオルに氷袋を巻いて目に乗せる。

泣きはらした真っ赤であろう目には、これが気持ちいい。



「クロ?」

「あに?」



まだつまってる鼻をすすりながら、俺は見えないみー姉に答える。



「あんたは、どうしたいの?」



ドウシタイノ?

その意味が理解できなかった。



「祝福するの?
別れさせるの?
別れるのを待つの?

それともーー‥」





“諦めるの?”




俺は、

ーーどう‥したい?



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