生業
「ネイルは爪に良くない。止めなさいと言っただろう」


男は指先、いや、爪をインクに落としながら、ベッド上の女に口こぼす。


「だって先生、可愛いんですもの。今日は花と蝶が付いてるんです。なんだかゴージャスな気分」


そう言うと女は、とっていたポーズを崩し、自慢気に手を男に向ける。

男はあからさまに嫌な顔をする。


「理解できんよ。爪も息をしているんだ。そんな風に塗膜をすれば良くないに決まっている。それにリムーバーも乾燥、変色を招くよ。」

「えー?」

「それからね、ネイルがこんなにもてはやされているのは日本だけ。海外じゃネイルをしているのは、マイノリティで主に低所得者。本物のセレブはこんな事しないよ」

「聞こえません」


女は耳を塞ぐ。


「君のその肉感的な身体は素晴らしいが、ネイルは評価できん」

「先生、ヌードモデルの私に向かってその発言は、かなりのセクハラです」


女は少し頬を赤らめる。


「何だ、聞こえてるんじゃない。ただの独り言だったんだけど」

「さっさと続きを描いて下さい!」


女は怒りながらポーズを取り直した。


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