「先生、どうして紙じゃなくてキャンバスに描くんです?」

「だって指や爪で紙に描くのは、昔からやっている人がいるじゃない。キャンバスに描いた方が、繊細さには欠けるけれど、掠れ具合いによって大胆なタッチに見えるんだ。他人と同じ事したって誰も見てくれないよ。現に私が筆で描いてる時なんて誰も注目してなかったよ」

「それが…」

「それ?」


女が男の爪を指差す。


「そう」


男が描くのを中断する。


「この忌まわしき爪で描く様になってからね…皮肉なものだ」


そう言い、男は爪をかざす。

窓からの光で爪の輪郭は浮かび上がり、その異形をまざまざと強調した。


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