恋花~桜~
でも、急に胸が苦しくなった。

《ヤバイ。これってもしかして…》

それはトキメキだった。でも俺は、もう一人の冷静な自分を呼んだ。

《好きになるのはやめた方がいいな…》

だって…

《こんな美少女と自分は不釣合いすぎる…》

今までも誰かを好きになったことはあったが、自分から告白したことがなかった。正確に言うならば、告白するまでの勇気が持てなかったのだ。

だから俺は、強烈に惹かれたこの想いに蓋をした。実るはずのない想いならば、いっそ想わなければいい。どうせ振られるならば、自分の中で諦めた方がいいのだと。

《眺めるだけにしよう。俺にはもっと素朴な女の子が似合っているはずだから》

こうして俺の高校生活はスタートした。

一瞬ときめいた想いに蓋をすることは、俺にはとても簡単だった。「綺麗だな」「かわいいな」と思っても、それは目の保養だと思うようにした。

《俺にふさわしい花は、桜じゃない。もっと素朴な花なんだ…》

俺にとって保科さんは、ただの憧れでしかなかった。
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