Air ~君と一緒に~

時計

「ごちそうさま。」
「はい。夜はうちで食べるの?」
「うん。うちで食べるよ。」
リビングを出て部屋に戻る。
クローゼットからYシャツを取り出し、クリーニング屋のタグを外す。
それに袖を通すと鏡の前に立った。
ネクタイをする仕草も、それなりに様になってきたと思う。
スーツを着て、最後に就職祝いに祖父からもらった時計を着ける。
7時24分。
「ちょっと早いけど、まあいいか。」
階段を降りて玄関に向かう。
「行ってきます。」
「はーい、気をつけてね。」
そう言いながら母親が見送りに来た。
「もう子供じゃないんだから・・・。」
いつものことながらそう思ったが口にするのはやめた。
まだまだ子供だしな・・・。
そう思って苦笑い。
「うん、ありがとう。」
母親のほうを振り返り、家を出た。

最寄の駅まで自転車に乗って約10分。
そこから電車に揺られ20分。
通勤距離としては恵まれている方だろう。
親父の会社まではそこからさらに1時間近くかかる。

少し早い時間に出たが、乗った電車はいつもと同じ。
ここのところ少し空いている。
「ああそうか、学生はまだ春休みだったっけ。」
ほんの2年前までは、この時期に遊びまわっていたのに、
春休みなんてものがあったこと自体、かなり昔のことに感じる。
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