銭コ乗せ
「さっきは変なところを見せてしまって、すまなかった。」

なぜかは知らないが、罪悪感が妙に出て来て、僕はそんなことを口走った。

「あの、オジサン、襲われた…の?」

不安そうに彼女は僕を見つめる。

「いや、あれはねぇ、劇の練習なんだよ。僕、演技上手かったかな?」

僕はなぜか、当然のようにウソをついた。

「えっ?そうなの!?私、ホントにびっくりした。」

彼女は驚いた顔を見せたが、すぐに安堵の息を漏らした。それから、

「それで、その…これ。」

思い出したように、また小銭を差し出してきた。

「…いいんだ。あげるよ。お小遣いの足しにしな。」

「えっ?でも、お金だし…もらえないよ…」

「子供のくせに、遠慮なんかするなよ。」

「でも…でも…あっ…」

戸惑って下を向く彼女は、何かを発見した。視点の先を辿ると、そこには今や価値のまったく無くなった、あの布袋があった。

「なんだ。こんなものが欲しいのか。でもこれ、ほら、破れて使えないんだ。」

「いや、そうじゃな…」

「まあ、これもあげるよ。もう、夜も遅いんだから、早く帰りな。」

半ば強引に彼女を帰すと、僕はベンチに寝そべり、物思いにふけた。
< 81 / 137 >

この作品をシェア

pagetop