胡蝶蘭

オタガイ ノ リガイ ノ タメ ニ








「偉槻ぃ~!
女出来たってホント!?」



店に出勤するや否や、田中がまとわりついてきた。



「なんだよ、離れろ。」


「そんな心底嫌そうな顔すんなって。
ほら、その顔その顔!」



鬱陶しい手を払いのけ、着替えにロッカーへ向かう。



「な、な。
彼女ってどんな子?」


「うるさいぞ。
だいたい、誰に聞いたんだ?」



偉槻が振り返ると、田中は身体をそらせて拳を避けた。



両手をあげて、降参の合図をする。



「誰に聞いた?」



繰り返すと、田中はおとなしく口を割る。



「ん?
えーとなぁ、___。」



名前を聞いた途端、偉槻は猛ダッシュで駆け出した。



モップ掛けされた床が滑る。



野球の滑り込みのように、偉槻は厨房に飛び込んだ。



「店長!!!!!」



偉槻の怒声に、厨房にいた人間が一斉に振り返る。



「い、偉槻…。」


「店長は?」


「そこ…。」



コック服の男を視線で脅し、店長を探し当てる。




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