胡蝶蘭
オタガイ ノ リガイ ノ タメ ニ
*
「偉槻ぃ~!
女出来たってホント!?」
店に出勤するや否や、田中がまとわりついてきた。
「なんだよ、離れろ。」
「そんな心底嫌そうな顔すんなって。
ほら、その顔その顔!」
鬱陶しい手を払いのけ、着替えにロッカーへ向かう。
「な、な。
彼女ってどんな子?」
「うるさいぞ。
だいたい、誰に聞いたんだ?」
偉槻が振り返ると、田中は身体をそらせて拳を避けた。
両手をあげて、降参の合図をする。
「誰に聞いた?」
繰り返すと、田中はおとなしく口を割る。
「ん?
えーとなぁ、___。」
名前を聞いた途端、偉槻は猛ダッシュで駆け出した。
モップ掛けされた床が滑る。
野球の滑り込みのように、偉槻は厨房に飛び込んだ。
「店長!!!!!」
偉槻の怒声に、厨房にいた人間が一斉に振り返る。
「い、偉槻…。」
「店長は?」
「そこ…。」
コック服の男を視線で脅し、店長を探し当てる。