胡蝶蘭
促すと、誓耶は寂しそうに笑った。



「あたし、兄ちゃんがいたんだ。
10歳も上の。
ずっと小さいときに、両親に捨てられたから兄ちゃんと一緒に生きてきた。
兄ちゃんに、面倒を見てもらった。」


「へぇ。」



そこまでは聞いた。



問題はその先だ。



「で、伯父夫婦のとこに預けられたんだな?」


「そう。」


「…で、そのあとは?」



偉槻は立って、冷蔵庫を開けた。



チューハイの缶をつかんで戻る。



こんな重い話、素面で聞けるか。



幸い、偉槻は酒に呑まれることはない。



のんだからと言って、酔っぱらうことはないので、話を聞くことになんら支障はない。



一応、誓耶のぶんも持って戻る。



「飲むか?」


「…あたし、未成年。」


「一回くらい飲んでも罰は当たらない。
嫌ならいいが、気付け薬になる。」


「…飲む。」



身体も温まるんじゃないか、と勝手に期待する。



未成年に酒を勧めるべきじゃないのはわかっているが、今夜くらい、いいだろう。



「で?
引き取られて?」


「しばらくして兄ちゃんが事故で…。」



天涯孤独ってか?



「一人ぼっちになった。」


「そうか。
…従兄は昔っからあんなだったのか?」



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