胡蝶蘭

オチテタ ケータイ








誓耶はあの後、家から逃げ出した。



既に10時近かったのだが、どうしてもあそこにいたくなかった。



無理矢理、匡を突き飛ばして逃げ出したので、怖くて未だに帰れない。



ふらふらとしているうちに、もう日付が変わった。



コンビニに入り浸るわけにもいかず、誓耶はたまたま見つけた公園で時間を潰した。



ところが着てきたのが手近にあったTシャツ、短パンなので、身体が震える。



だからといって帰れるわけでもない。



帰るくらいなら凍え死んだ方がましだ。



寒さに耐え、誓耶はブランコに腰掛けた。



こんなことをしていると、兄ちゃんとよく遊んだなと思い出したりして。



涙が出そうになった。



兄ちゃんがいたら、あんな男なんかこてんぱんなのになぁ。



誓耶には優しかった兄だが、喧嘩でその名は知れ渡っていたらしく、不良の間ではそこそこ有名だ。



それを知ったのは地元の有名な不良中学に上がったときだった。



既に見かけからして男として成長していた誓耶はガンを飛ばしていると絡まれ、名乗った瞬間解放された。



わけがわからず問い詰めると、「われの兄貴が怖いんじゃあ!」と逆ギレされた。



兄ちゃんは死んだ、と言ったら、「俺の心の中であの人は生きてる!」とわけのわからないことを言われる始末。



どんなことをしてきたのか不安になったのを覚えている。



……今、その意味不明な先輩、慎吾は最も仲の良い友達だ。 



どうやら兄、泰誓に憧れていたらしく、誓耶にもよくしてくれた。



……二人にかかれば匡なんかちょろいのに。



慎吾には毎夜のように匡に犯されていることは言っていない。



言ったら本気で何をするかわからない。



根は優しいのだが、なんせ気性が荒い。



言いたくても言えないのが本音だ。



今年で高校は卒業だから、大学に行くなら遠くに、働くにしてもやっぱり遠くに出ていこうと思う。



匡はともかく、叔父夫婦は狂喜するだろう。



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