胡蝶蘭
少し落ち着いたのを確認して、偉槻は尋ねた。



「で、これからどうするんだ?
家に帰るか?」


「…ずっとここに置いてくれるわけじゃねーだろ。」



まあ、そうだが。



「朝飯は?」


「いい。
そこまで世話にはならない。
泊めてくれただけで感謝だ。」



なんだ俺が冷たい奴みたいな言い方だな。



なんだか悔しくなって、一言添えた。



「いつでも泊めてやる。」



誓耶が驚いて顔を上げたのがわかった。



偉槻は敢えて振り向かない。



「…頼りにしてる。」



そう言った誓耶の声は明らかに嬉しそうで、偉槻の頬が緩んだ。



まったく、ころころ表情を変えやがって。



最初のころの雰囲気が嘘のようだ。



「ホントにありがとな。」



もう、帰るつもりらしい。



「送るか?」


「いいよ。
見られたら大変だろ。」



…お前の恰好のほうが大変だ。



幸い、まだ朝が早いのでガラの悪い連中は少ないはずだ。



無事に帰りつくことを祈る。



「じゃ。」



短く言って誓耶は出ていく。



偉槻はグラスを置いてから見送った。



閉まるドアの隙間から、誓耶の顔が見える。



完全に姿が見えなくなってから、偉槻はそこを離れた。























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