胡蝶蘭
Three.
ナカヨク ナリタイ アイテ ノ ショウタイ
忙しいのかなんなのか。
偉槻はまた運送の仕事に回された。
付きまとわれてる女から逃げられるからありがたいのだが、力仕事は堪える。
まさか、店長が気を利かせてくれたのか?
あの情に厚い店長なら考えられる。
…店は大丈夫なんだろうか。
まあ、田中が普通に働けば済む話だ。
偉槻はあまり考えないようにした。
段ボールを積み上げる男の後ろを、邪魔しないように通る。
その偉槻の耳に、ある名前が飛び込んできた。
「おい、慎吾、こっち来い!」
はいと大きな返事をして、男が走っていく。
見ると、この間からやたらと偉槻に話しかけてくる新入りだった。
…そういや、あいつの名前も慎吾だ。
まさか、と偉槻は考える。
誓耶の言ってる友達も慎吾だった。
同一人物か?
偉槻は無意識に慎吾を目で追った。
歳は確かに聞いてる年齢と一致する。
でも、まさかな…。
一人で勝手に結論づけ、苦笑する。
そんな偶然があるか。
こんな人口密度の高いこの場所でそんな偶然があるわけが…。