胡蝶蘭
「あーあ、大神は偉槻かぁ。」


「今度こそ覚えとけよ。」



俺がお前を覚えてんのにお前が俺を忘れてるなんて我慢ならない。



「努力しますよ。」



本気かどうかわからない怪しい返事を返し、誓耶が寝転がる。



「お前、慣れすぎだ。」


「いいじゃん。
家出先が一個増えた。」



よっしゃ、と誓耶が指を鳴らす。



「よっしゃ、じゃねーよ。」


「あたたた。」



起き上がった頭を押し戻す。



誓耶は呆気なく倒れた。



「そうそう家出なんかするなよ?」


「じゃああんたがあたしと代わってくれよ。」


「…無理だ。」



偉槻は気まずくなってコーヒーを飲んだ。



誓耶の皮肉っぽくない口調が余計に罪悪感を膨れあがらせる。



「慎吾は何も言わないのか?」


「何を?」


「従兄のこと。」



ああ、と誓耶は無表情に戻った。



「言ってないもん。
一回話した時の反応が怖くて、もう触れてない。」



だから、匡から逃げたとき、慎吾の家には行きたくないと言う。



< 155 / 366 >

この作品をシェア

pagetop