胡蝶蘭
「お前は、もう…。」


「何?」


「別に?」



不思議そうに首を傾げ、誓耶は偉槻の隣を歩く。



「今日、ありがとな。」


「あ?」


「楽しかったぞ、擬似デート。」


「あぁ。」



ここで、俺もだ、とかなんとか言えればいいのに。



偉槻には出来ない。



にこにこと隣を歩く誓耶は、恥ずかしげもなくそれをする。



少しだけ羨ましく感じた。



「また、暇なら付き合ってやる。」



こんな口しか利けない。



「ホントに?
言ったな、約束だぞ。」


「あぁ。」



偉槻は照れ隠しに、ぶっきら棒に頷く。



今日は思ったよりも濃い時間が過ごせた。



だんだん、誓耶との距離も埋まっている気がする。



最初は厄介な女だったのに、誓耶は偉槻が思うより深く、偉槻の領域に踏み込んでいるようだった。

















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