胡蝶蘭

ソシテ、シリアウフタリ








店の軒先で、偉槻は苛々と空を見上げた。



厄介なことに、雨が降り出した。



またあのケータイを拾った女は文句を言ってくるんだろう。



ここに届けに来させるだけで、あれだけポンポン歯切れよく偉槻に文句を寄越したのだ。



想像するだけでため息が出る。



にしても、遅い。



まさか、届けに来る事を了解したからにはここからそう遠くはないはずだ。



それにしても、あいつ、変な奴だったな。



声は女なのに、喋り方がまるで、男だ。



というか、言葉遣いがなんとなく雑だ。



一瞬、幼い声を持った少年かと思ったほどだ。



でも、一人称があたしだしな。



女だろ、と偉槻は煙草を吹かした。



雨は止むどころか、激しくなっている。



しかも今は夕暮れ。



どんよりとした空は、雨と一緒になって不気味な空気を作っている。



飲み物の一杯くらい、奢らされるかな。



それくらいの覚悟をした偉槻だった。



が、それは心配無用となる。



なぜなら、



「おい。」



声をかけてきた女、というか少女は、想像とは違って、どこか幼かった。



少なくとも二十歳ではない。



「お前がこのケータイの持ち主か?」



煙草をくわえる直前の格好のまま、偉槻は固まった。



こいつか、と。







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