胡蝶蘭
ソシテ、シリアウフタリ
*
店の軒先で、偉槻は苛々と空を見上げた。
厄介なことに、雨が降り出した。
またあのケータイを拾った女は文句を言ってくるんだろう。
ここに届けに来させるだけで、あれだけポンポン歯切れよく偉槻に文句を寄越したのだ。
想像するだけでため息が出る。
にしても、遅い。
まさか、届けに来る事を了解したからにはここからそう遠くはないはずだ。
それにしても、あいつ、変な奴だったな。
声は女なのに、喋り方がまるで、男だ。
というか、言葉遣いがなんとなく雑だ。
一瞬、幼い声を持った少年かと思ったほどだ。
でも、一人称があたしだしな。
女だろ、と偉槻は煙草を吹かした。
雨は止むどころか、激しくなっている。
しかも今は夕暮れ。
どんよりとした空は、雨と一緒になって不気味な空気を作っている。
飲み物の一杯くらい、奢らされるかな。
それくらいの覚悟をした偉槻だった。
が、それは心配無用となる。
なぜなら、
「おい。」
声をかけてきた女、というか少女は、想像とは違って、どこか幼かった。
少なくとも二十歳ではない。
「お前がこのケータイの持ち主か?」
煙草をくわえる直前の格好のまま、偉槻は固まった。
こいつか、と。